―――かくして、一年の歳月が経ち。 俺たちは、共に一つだけ齢を重ねて。1学年を同時に、進級した。 まぁ、そんなこんなで・・・。 真夏も残暑も終えた――――・・・筈なのに。 俺の周りは、現在…極寒の真夏日だったりする。 6月も、ドコとなく終りそうな日に。 事の起こりは海外から『交歓留学生』が来たところから。 パターンとしては、俺が編入(?)した時と同じタイミングで。あの時と変わらない光景を、―――教師に紹介される、 人物が俺じゃない―――、今度は衆目に混じる立場で見ていた。 そして。あの時と同じで、始まりの言葉が教室に響く。 それは全ての、切欠だった。 「フィニア=アル=ワイトと申します。今月の初めから夏休みまでの、2ヶ月間。 暫くご厄介になる事になりました。短期間ですが、みなさま、どうか仲良くして下さい。」 ・・・・・・やたら此方の母国語が饒舌な女の子が。 「どうぞ宜しくお願い致します、ウヅキさん! 可愛らしい方とお隣の席同士で。私、嬉しいです。お世話になります。」 ・・・・・・席替えをしたばかりの、俺の隣の席に彼女が着いた瞬間。 「――――――・・・エルク、次の席替えが待ち遠しいねD」 ミリルの様子が、おかしくなった。 なんつぅか、声が笑っていない。 端正とも美麗とも賞賛され惜しまれない筈の顔が、歪んで見える。 いや、実際は歪みなんて一片も無いのだが。 光の反射か、砂上の蜃気楼か、エベレストのクレパスかなんだかの原因で、 ミリルの顔色が、かなり有り得ない形容をしてた様に俺には見えたのだ。 「再会から1年と少しか。ミリルの病気・・・再発したな。」 頑張れよ、と。ジーンからかなり有り難くない励ましを受けた。 この日以来、ジーンは俺に纏わる事に関わらなくなった。・・・って言うか、 俺を見ると(特にミリルと一緒だとより顕著に)避ける様になりやがった。 ジーンの・・・卑怯者ッ!!(確実に負け犬姿勢) 7月だと、確認したい日。 ―――が、しかし。 何か事件が発生するのではないか、と言う周囲の(事情の知った)者たちの不安を余所に。 ミリルとフィニアは、特に全面戦闘をおっ始める事無く。むしろ、 おっかないぐらいに慎ましく静かに、世界の為に(胡散臭い)平和を貢献し続けている。 言い換えれば、かなり危険な均衡を保っていた。 例えるならば、20世紀の末頃のキューバ危機やら米ソ冷戦状態。 「ヤったろうじゃないか」の気配がプンプン漂って臭いくさい。 正直な話。 あんまりにも、今の環境は心臓にもシュウ先生(担任)の生え際にも(!?)優しくないのは解ってたけど。 もう如何にでもやってくれ、と。その時の俺は、諦観姿勢を決め込んでいた。 それも、 全ては最早、今は昔の話・・・。 『阿鼻叫喚に包まれた始業式』が終わり。 秋に修学旅行を控えた9月の、今日。 昨日までの様に、ミリルと一緒でなく。ジーンにのみ電話で内情を伝え、俺は宛ら日の光を厭う魔物の如く 、人としての気配を消して。入学以来初めて独りで登校した。 現在、時間は7時40分。有り得ないくらいに、早く着いてしまった。 本来の目的である「今日は誰とも関わりたくない」という意思が、かなり反映された結果と。 誰が思うにも容易い。・・・っていうか、安直すぎるのか? 最小限の音のみを許して扉を開け、その隙間から身を滑り込ませる。こうして俺は、無事に教室への侵入を果たした。 自分の机に鞄を置いて一息吐くと、途端に 全身が弛緩して。椅子に座る間もなく、俺の頭は机に沈み込む。 同時に。昨日、この教室に降ってかかってきた災難に。それに伴っての己の立場に。 俺の思考は、何処かへ馳せたまま帰って来る見通しを、若干喪失した。 序でに、なんだかもう、帰る気も自己的に無くしていた。 「・・・つうか、家に帰りたい。」 「それは良くない事ですよ、エルクさん。中学までは義務教育。 その原因がミリルさんに会いたくない若しくは、接触したくない事だとしても 欠席、早退、遅刻はしてはいけないのです! 基本です! 頑張って下さい、私も一緒ですから!」 俺の右隣からフィニアの叱咤激励(?)の声が上がる。 「でも、常に万全と言う訳でもないわ。時には体調がおかしくなる事だってあるもの。 人生において係わり合いたくない女代表フィニアが未だに隣に居るんだもんね。 ねぇ・・・エルク、大丈夫なの? 何だったら保健室でも行く?やっぱり帰る? 私、付き合ってあげるよ?」 俺の左隣からミリルが慰労安息(!?)の声を掛けてくる。 その2人に挟まれた俺は、頭をめり込ませる勢いで机に突っ伏した。 何故、昨日がそんな忌まわしい日になったのか。 全ては11月に予定された修学旅行の計画を立てている時の事。 顔に似合わずにおしゃべりなフィニアが、一言二言零すなんて日常茶飯事になっていたから。 勿論、その日のその時間だって例外じゃなかったし、 フィニアの爆弾発言(攻撃属性:主にミリル向き)事態が何も今更な事じゃなかったけど…。 今回のは特に規模がデカかった。 ダッシュの掛声は、ジーンの一言。 「そういや…、フィニアは9月には向こうに帰っているんだよね?」 一番に飛び出したのは、勿論ミリルだった。 「ジーン。そんな事は今、云う事じゃないでしょう?」 *裏*=折角黙っているのだから、しゃべらせる切欠を与えないでよね! 内心の言葉を凄まじい侵犯オーラで語るミリルは、絶好調だと思った。 思わず見惚れる『微笑』そのものは、内容と思惑を取り除いた上にろ過すれば、 綺麗なものと認識出来た。例えそれが『氷の微笑』と称されてもおかしくないものだとしてもだ。 しかし、 「有難う御座います、ジーンさん。でも心配は要りません。 両親と学校とで話し合った結果、私も修学旅行には参加出来る事になりましたから。 だから一緒です。エルクさんとも、ジーンさんとも…――――、 一緒に、付いて行きますからね、ミリルさん。」 フィニアの『笑顔』も壮絶だった。 効果は隣の教室にも及んだらしく、不意打ちを喰らった生徒数人がトイレに逃げ込んで暫く出てこなかったと言う。 南極の生き物でさえビックリなブリザードに、シュウ先生の髪の毛が何本か飛んだのをジーンは見たらしいが。 俺は。位置的に2人の間に居た故に、無意識の挟撃に遭って身動きがとれなかった。 今日。結局の処で、俺は帰れなかった。 それは最早、昨日の状況に日常が戻れない事を意味していたに他ならない。 昨日までは2人とも、俺が居なければ決して互いに関わり合おうとはしてなかったのに。 今日になってからというもの、いつ、どこで、なにをしていようと。 相手に攻撃できる隙があれば、構わず戦闘態勢を通り過ぎ、周囲を巻き込んだ上での舌戦をするようになったからだ。 俺は、自分だけ逃げた後で、皆の骨だけを拾うのはイヤだから・・・。 自分が真っ先に犠牲になる道を選ぶしかなかった。 これで修学旅行に行くのか…。 今日も2人の笑顔は綺麗だった。 周りの、寒冷地帯と化した景色によく映える位に。 教室の外は、未だに真夏日をやっているというのに。 |
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