―――季節は、夏。



「、いやだーーー!!絶対に、やだッ!!」



その騒ぎの発端は、校庭の一角からのものだった。

麗しき青空。晴れに感謝を捧げる。・・・嗚呼、本日、体育祭日和。
学校行事なんて、変化と独自性とバリエーションが無い事で有名な様なもので。 ましてやその中身となれば、公立だろうと私立だろうとそう大差が無く・・・・・というより、
「やることは、さして変わんない」と、まぁ、そんなものです。
小学校を卒業したばかりの1年生共も最初こそ、拗ねてイジケモードに入っていたものの。

定番メニュー程、本番に盛り上がる率は高くなるもので。 リレー、綱引き、借り物競争と競技を消化していくにつれ、 予行練習の時までの消極的な態度は何処へやら・・・・。火が付きやすく、負けず嫌いの年頃の一年生共は、 普段さえ見せない様な奮闘振りを披露し始め。やる気を見せなかった彼らを 練習中に散々叱咤してきた教官一陣は、その変貌ぶりに、ただただ唖然とするばかりであった。

そして、その日のスケジュールの最後のお目玉商品の時間が訪れたわけであります。


その競技の出場選手に、エルクが選ばれたことで――――――。











私がエルクを見つけたのは、人気の無い体育館裏だった。


壁に向かって背中を丸め座っている様にちょっと笑いかけたけど、本来の目的を思い出して。 緩みかけた顔を引き締め、私はエルクに近付いていった。

私の姿を見たエルクが、驚くのは予想がついていたけれど、軽蔑する目を見せた事に私は、少し戸惑いを覚えた。 同時に、心に新鮮な風が吹いて、衝撃と感動が一緒に来た。



「……ミリルも、連れ戻しに来たのか?
 俺を、あんな競技に出す為に、態々呼びに来たのか??」



・・・・目縁を赤くして、冷たい言い方をするのね。エルク。
・・・・そんな、おっかなくて怖い顔して、私を睨みつけるのね。

―――――・・・でも、ごめんね。エルク。

あなたの顔って、どうしても可愛いから。全ッ然、怖くないのよ?
だって、あんまりにも存在が人畜無害すぎて、かえって庇護欲がそそられるのよね。
「はぐはぐ」した上に「むぎゅ〜〜ッ」としたいくらいに。

素直すぎる反応に、あなたの将来が心配になってきたわ。


私はエルクの隣に腰掛けて、説得を開始することにした。
殆ど同じ視線になったせいなのかな。エルクの目が、泳いでる・・・・。



「どうしても、イヤなの?私は、エルクに参加してほしいんだけどな。」


「……無理だよ。「色別対抗・仮装二人三脚」なんて。」



やっぱり、エルクは競技名にネックがあるみたい。嫌がる気持ちも分かるけど。でもねッ! 白組優勝の為にも、私達の為にも、エルクには出場してもらわなくちゃいけないのよ!!!

でも、あからさまに言い過ぎれば絶対にエルクだって不審がるし、勘繰られられちゃうかもしれないし。 ジーンが選手じゃなかったら、もっと言い易かったんだけど。仕方ないよね。


私は、友達と何度もシュミレーションした手段を使うことにした。
ごめんね、エルク。お願いだから、上手く乗せられて引っかかってね☆




「エルク、あのね。実はエルクが選手になったのは、ジーンのせいなの。」


「―――――……!!それ、ホントなのか?」



あ、初めに告白しておきます。これから話す事は、
全部、フィクションです!完全に、でっち上げなの。




「…ジーンも、出るのに?…まさか!道連れにする気じゃ??」


「そうじゃ、ないの。」




第一、ジーンにそんな根性は無いわ。




「わからない?」


「…………うん。」


「今日の為の仮装の衣装を作ったの、誰だと思う?」


「…………え?」






「…イデア先生、なの。」






「!!!!!!!!!!!」




顔が引きつらせたまま、エルクが固まちゃった!
そう。エルクは、家庭科担当官のイデア先生が苦手なんだよね。知ってるよ、そんな事。 だって、あの教官いつもエルクのこと、舐めまわす様な視線で、見てるもの。だから、私は大ッ嫌いだけどね。

・・・・!!?
あれ??どうしたの???

急に身体が落ち着かなくなって…エルク。

もしかして、もしかしなくも、エルク。震えてる??

か、か、か、可愛い〜〜!!!
私、このまんま、持って帰りたいよぉ!
でも、ごめんね!あと、もう一押しさせて?エルク。




「エルクの採寸を殆ど再現した衣装だって、ジーンが言っていたわ。」


「…………………」




本当にそこまでやったら、変態を通り越して懲戒免職ものよね。
勿論、そんな衣装は、オークションなんかに出品しないで
永久ほぞ・・・、――――――じゃなくて、永久・・・処分、よッ!!




「もし、エルクが出ない場合は、私が替わりに着て出るの。」


「!!!!!!!!!!!」


「エルク、小さい頃から服のサイズは私と、同じ位の大きさだよね?」










「…出るよ。俺。」




その言葉を聴いた途端、私の中に掛かっていた枷は外れていて。エルクの手をしっかり握ると 校庭に向かって走っていた。もう、興奮して走る前から心臓がバクバク云ってたけど、それでも走って。

その先は、もうクラスの皆でエルクを着替えさせて、ジーンにはしっかり話を合わせてもらえる様に 打ち合わせをして、エルクが自分の格好を確認する前にさっさと入場門に送ってから。


私は、この日の為に父さんから借りたデジカメを構えた。











折角、逃げれたのに、舞い戻ってきた憐れ虫。

校庭のど真ん中の直線距離100メートルのコース。そのスタート地点でエルクは、まだ混乱していた。 と、云うより混乱の渦の中に取り残されたままだった。

そもそも、本来の年齢(飛び級したので、本当は10歳)を考えれば、エルクの成長期はまだ先の話で、現状においての体格に コンプレックスを持つ必要は無かったんじゃないかと、思考を深めれば深めるほど、後悔の念がじわじわ染み出してきていて。

自分の『なり』と周りの雰囲気をよく見れば、それに一層の拍車がかかって。




「…なぁ、ジーン。もしかして、俺。はめられた?」


「何云ってるんだよ、エルク。お前はもう、ばっちり」




会話の終了を待たずにホイッスルが鳴る。同時に、婦女子の黄色い声も。
ジーンは、固くなったエルクの足を引きずりながら右足を踏み出した。二人三脚の為、エルクの左足も一緒に出る。
いや、しかし。ここまでは正常の範囲なのだが。

エルクの走る姿を追う様に打ち寄せるフラッシュのウェーブと 轟々と巻き起こる砂埃、そして途絶えぬ緊迫の色濃い黄色い声とピンクの視線・・・・コレハ、何ダ?


エルクは、もたつく己の足元を見た。
しかし、紐でまとめられているその足は、幾重にもなるレースで見ることが出来ない。
少し視線をウエストの辺りにずらしても下肢のラインさえ見えず、放射状に垂れ下がる布が見えるばかり。 肩は大きく剥き出してスレンダーな胸元には不自然なパットが入っていて、髪に付けられた花飾りをあつらえたヴェールと、 着替えた後無理やり持たされたブーケを確認して、エルクは途方も無い疲労を覚えずにいられなかった。




「普通、オンナのコの夢じゃないか?この役は。」


「『最近のオンナのコ』共の夢は違うんだって。もう、諦めろよ。」




そう慰めるジーンは、何処から持ってきたのか、出所不明のタキシード姿。 よくよく見渡せば、他クラスの出場者も男ばっかりだった。しかも皆、それぞれにおかしな格好をさせられているせいか、 空ろげな表情で明後日の方を見ている。

しかも、二人三脚での100メートルは、相当遠い距離に思えて。まだ、30メートルも走ってない事実に エルクはため息を吐いた。悲壮な顔で。




「なんだよ、エルク?マリッジブルーってヤツ?」


「『ゴール前』だからか?…わりぃけど、今の俺には笑えない冗談だ。」




華麗な純白のウエディングドレスで、幼さが残る顔にやや影を落としたエルクの姿に失神した女性方と 頭を抱えた教官陣と何かとの葛藤に苦しむ大勢と・・・・様々な思いを各々に胸に残して、
体育祭のフィナーレは訪れる。





END




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