己の因縁を断ち切る為に?それとも、僅かな機会に縋り付く為に?


お菓子業界の口車に絆されて少女達がチョコレートに「義理」と「マジ」の二重奏を演じる『ヴァレンタインデー』が、 「本音」と「建前」を意味づけるモノならば。その対称となる『ホワイトデー』が、「等価」と「倍返し」を連想させるのは 些か(否、絶対に)不条理な事としか思えない。
下に恐ろしき「女」と云うモノは、ズルく強かなのだと。菓子一つで己が気持ちを なんと安く代弁させるのかと、云ってしまっても良い・・・・筈なのだが。

こうも「女」が生臭く世俗的で割りきりが大変宜しいのは、「男」が未練たらしく希望的にかなりしぶといせいでは ないかと――――、不甲斐ないモノだと見るならば。


世の男性諸君の多くが「倍返し」を強要されるのは、最早、致し方ない事と云わざるしかない。

――――…至極、残念ながら・・・。








今月の財布の中身を確認してから直ぐ隣の棚の商品を見る。

なんの事はない。そうすれば、棚の商品の値札が此の財布の中身に見合う金額に変化するのではないか――――と、いう 複雑怪奇な現象を期待して。
結果は言わずもがであるが、『変化なし』。


「ジーン、何してるんだよ。早く買わないと良いのが、無くなちゃうぜ?」

「・・・・エルクは良いよな。相手が、ミリルだけでさ〜。」

「なんだよッ、それ!!? 人を馬鹿にした言い方は! 俺だってな、色々考えてなッ!!」

「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!! 分かってる、分かってる!」


『彼』=エルクが、史上最強の幸せ者だということは。

ジーンは、横目でちらりとエルクが肌身離さず持っている紙袋に思いを馳せた。
恐らくそこにあるのは、彼が過日に彼女から頂戴したチョコと「等価」のモノだろう。それも、彼女一人分だけの。
そうでなければ 散財性質の彼の財布から――― チョコ代とは云えど ―――お金が出るわけ無い。(所詮しがない学生の小遣いなのだから) それだけでもエルクとジーンの差は明らかだというのに。


「俺としてはさ…というか男心としては、たくさん貰える方が良いと思うけどな〜。」


唇を尖らせて不貞腐れぎみのエルクを見た瞬間、過日の舞台裏をしゃべりたくなった衝動を、ジーンはどうにか抑えた。 僅かに口元を歪ませながらも、こめかみに薄っすら青筋をたてながらも。全ては小さなプライドの為。


「まぁ…、身長差10.2センチの魅力の違いってヤツだよな。」

「、うるせ―――ッ!! いつか絶対にジーンを追い越してやるぜ!! 見てろよ!」

「・・・・チョコの数も? 身長も??」

「そんなの、当たり前だろッ! 首洗って待ってろな!!」


『彼女』=ミリルに貞操の危機を心配されて守ってもらっている現状じゃ、この先いくら身長が伸びたって無理な話。

毎年毎年変わりなく襲ってくるバレンタインデーのチョコ戦争で、一週間前から敵をありとあらゆる手段で牽制しつつ 当日に不意打ちで手元に渡されそうになるチョコを見つける度に抹消して、彼の周囲を一日中巡回しているミリルを 大人しくさせない事には・・・――――。


「――…お前のチョコ数アップは、望めないな。」

「嫌味か!? それはッ、!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・そうだよ、嫌味だよ。」


いい加減にお前がミリルを抑えてくれないと僕が貰うチョコの数が増えて困るんだ。相乗して返す「物」の数も。

溜息と共にもう一度、ジーンは棚の上の商品を見た。今年のチョコは12個。毎年の手痛い出費に泣いているこの状況は、 はっきり云って逆切れしたいところなのだ。
「一体、誰の為のチョコなのか!?」と。

ジーンの持ち前にちゃっかり入っているチョコの中には、明らかに「受け取り人、間違い」なものが混じっている。
それは―――、やたら可愛らしいラッピングだったり、めさくさ甘いチョコが入ってたり(ジーンはビター派)、 同封メモに「お2人で食べて下さい」ならまだしも「エルク君(さん)に渡して下さい」と書いてあったり・・・・。

最初に迎えたホワイトデーに入っていたのが1個だったからジーンも『彼女』の目を誤魔化して渡し舟をしていたものの、 今年はとうとう4個も混じっていた。
ちなみに『彼女』はもう既に感づいているのだが、黙認しているらしく干渉が無い。
ジーンとしても『アレ』を敵に回したくない一心で、エルクにはバラしていない。しかし、本心を云えば下手に生殺しにされて いるよりは、さっさと回収or廃棄処理に来て欲しかったりする。(勿論、『彼女』に)

尤もそんな事、口が裂けても云えないが。


「・・・お返し代くらい、カンパしてくれたって良いよな・・・」

「―――!!!? 俺に言ってんのかよッ!?」


「――――――…違げェ〜、よ。」




今年のジーンの出費は、3000円に及んだと言う。
そう、なんだかんだ云っても彼のは所詮「義理」。「倍返し」がセオリーなのである。

初恋で告白、公認カップルvは、未だ未だずゥ―――――ッと、先の話。



END





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