ローレシアの王子は驚愕した。















自分に相対する存在の小ささに。

聞いていたよりずっと儚く脆弱な命に。

寝物語の中の「それ」との落差に眩暈を起こしそうだった。



朧気な記憶の魔物・・・幼い頃、夢の中で想像した姿に震えた。
現実と夢幻の境目で何度も冷や汗をかいた。その度に朝日を恋しく思った。
長い時間を掛けて植え付けられた。心から体へと、物語から記憶へと、過去から今へと
恐怖、畏怖、嫌悪 ──────── その一族に生まれた者として当然だ、と育まれていた





                                                 ・・・敵愾心









「、ぅ・・・嘘だろう・・・?」



歴史で謳歌されていた事は、偽りだったのか?
語り語らいできた事は、真実には程遠いお伽話だったのか?
自分は・・・祖先達は途方も無い過ちを犯したのではないだろうか?

王子は、自分の中の何かが壊れた音を聞いた。
其れは繊細な心だったか?それとも硝子にも似た若く気高い矜持だったか?









『禊ぎの章』






『ムーンブルク、一夜にして滅亡する』


勿論、其の報はサマルトリアにも届けられた。
青天の霹靂とは此の事だ、と王子アラウスは唇を噛んだ。

一昨夜のムーンブルク襲撃は、行商人によって既知の事だった。それでも、
誰が信じるだろうか。・・・誰が、信じられるだろうか?─────其の事実を

アラウスは今まで味わった事のない感情にのまれていた。



暢気という程大人しく、年齢の割に冷静であるにも関わらず物事には積極的で、
優しげな容貌と穏やかな人格に惹かれる人も多く、彼の周りには笑いが溢れていた。
黄金に近い小麦色の髪とアイスブルーの瞳、柔らかに微笑んだ口元は人当たりも良かった。
穏和で優しい少年の様な性格の彼は、温かみのある声で話す事の方が多かった。



「・・・信じられない・・・」



何時もと違う冷え冷えとした声
こんな声も出せるのか、と彼は驚いた。

─────・・・自分の激情は、止められない。

悟ると割り切るのは簡単だった。全身の血が滝上っていくのを覚える。
理性など弾け飛ばし、思考を中断させた。そうすると内の制止さえも無視出来た。
胸倉を掻きむしり灼かれる様な憎悪を冷まそうともせずに、アラウスは城中を駆け回った。

世界は長く争乱とは無縁だった。備蓄庫の装備は最悪で苛立ちが募る。
守備兵の物を巻き上げる訳にもいかず。父王に資金をせびる訳にもいかず。
内の制止がやっと理性を呼び戻したのと妹姫の呼ぶ声が耳に入ったのは同時だった。









   ◇◆◇◆◇◆◇







喧騒の度合いでは、ローレシアもサマルトリアも差が無かった。
只、此処は以前から難問を抱えていたから皆、冷静を努めている様だった。
父王の書状を携えたアラウスがローレシアに着いたのは命が発令されてから3時間後、
彼は自国の使者が出発するよりも早く到着してしまったのだ。

─────・・・つまり、アポなし。

だが来城してから王に謁見するのに時間が掛からなかった。絶対に有り得ない現象である。
心なしか粗雑に扱われていた気さえするが、此方も正規の手続きも大半(殆ど)省いて
いたから却って此の対応が有り難かった。大層に扱われたら居たたまれない。
次第にアラウスにもいつもの表情が戻ってきた。



「遠路遥々、良くお越し下さいました。アラウス様」



ローレシアの老宰相が恭しく挨拶をした。アラウスも其れに応えた。
平常心を失いかけてた姿を先に見られているから払拭する為にと態と慇懃な態度をとる。
其れを見て老宰相は何故か涙を零した。アラウスは慌ててハンカチを取り出す。
しかし、彼に取り付く島を与えず王宮的作法で玉座の間に案内した。

当然の礼儀ともいえる挨拶もそこそこにローレシア王は席を立ちアラウスに土下座した。
余りにも突然の行動にアラウスは目を剥いた、そして自我を取り戻す。
慌てて王の側に立ち彼の腕を引き上げる。その時、アラウスは異常に気付いた。
老宰相もそうだが兵一人たりとも王の異常とも云える行動に異を唱える者が居無いことに・・・
焦心の王が口を開いたのは、彼が玉座に腰を下ろしてからだった。



「、知っているかもしれないが、実は、王子アレウスは・・・不在で」



「はい、その事は ───」


「お父上とのお約束を違えるつもりは、全く無い。アレウスには帰還次第、すぐに出陣させる故、
 アラウス殿には、どうかお先に立っては戴けないだろうか・・・」


「・・・?」


「し、支度金は儂から差し上げよう!」



王は会話を一方的に打ち切ると顎を掬う仕草をした。心得た老宰相が奥に消える。
アラウスが呆気にとられている内に革袋を持った従者が現れ、王は手ずから其れを押し付ける様に渡した。
重さはアラウスの予想以上だった。返そうとした腕は王の手によって拒まれる。
結局、アラウスは其れ以上説明がないまま城を出る事になった。

城門まで追いやられアラウスは溜息をついた。
彼には・・・いや、彼でなくても全く予想出来なかった展開だった。

(アレウスの家出は周知の事実の筈なのに・・・なんで?)

考えに耽っている彼に鋭い視線が投げられた。瞬時に辺りを見回すと城壁の影が揺れていた。
アラウスは目立たない様に影の方へ近づく。居たのはアレウスの召使いの少女だった。
少女は視線だけでアラウスを確認すると俯いたまま口を開ける。



「『勇者の泉の洞窟にて待っている』と言っておられました。」


「、誰が・・・?」



間抜けな声で誰何したが、何となくアラウスには其れが誰か分かった。
彼が出国したのは少女が城内に帰って行ったのを確認した後だった・・・。







   ◇◆◇◆◇◆◇







浅い洞窟の最深部に彼は居た。
声を掛けるのが躊躇われる程、静かに佇んで。
緩やかな滝の音が耳朶に心地よかった。照りつけるでない光が天井から上品に差し込んでいる。
揺れる水面が光の欠片を抱え普段の色より淡く鮮明に瞳に焼き付いた。
彼の隣で額ずいている人影に見覚えは無かったが身に付けている鎧は記憶に新しい。
アラウスは呆れた風に溜息をついた。同時に彼が半身だけ振り向いた。



「君ならきっと来ると思っていたよ。」



光と織り混ざる艶らかな黒髪。碧にも見えるダークアイと口元だけが笑っていた。
人を食った笑みにアラウスは違和感を覚えた。眉間だけ寄せて困惑した表情を作る。
やがてアラウスの方を向き靴音を立てて歩きだした。兵が思わず顔を上げる。
何か声を掛けようと素振りはするが声は上がらなかった。知ってか知らずか彼は無視していた。
あと半歩の距離まで来て彼は止まった。アラウスは表情を伺いながら言った。



「旅立ちの時はきた。悪の使者を倒す為、勇者ロトの名の元に・・・」


「『名前』は置いていく」



アラウスの宣言を彼は冷ややかに遮った。
微かな声を上げた兵は誰の目にも明らかな恐れの色を浮かべてたまま固まっていた。
焦りと苛立ちと非難の意味を込めてアラウスは彼を睨んだ。しかし、それに怯む様子は無かった。
彼の顔から表情が消えた。瞳に碧い彩が混ざり色が深まると強い引力を感じた。
2年前に最後に会った時から一体彼に何があったのか、アラウスの混乱が深くなった。
兵はもう完全に身を丸め、ただ震えていた。



「────・・・ヒューダだよ。」



え?、とアラウスは首を傾げた。



「名前は『此処』に置いていくって言たんだ。
 だから、今日からヒューダって名乗っていく・・・そういう事だから」



そう言って、彼・・・ヒューダは右手を差し出した。
複雑な気持ちのままだったが、アラウスはその手を握り返す事にした。
この幼なじみの思考回路を理解するよりも遣るべき事がアラウスには見えていたから。








   ◇◆◇◆◇◆◇







  永く波乱の無かった世界、誰もが平和の中に居た

    均衡が整えられた世界、未来は確かに在ると信じていた・・・昨日までは

 突然、闇に放り込まれた。 訳が分からない渦に巻き込まれて、感覚を塞がれて、

             なぜこうなってしまったのか どうしてこうなってしまったのか

  いつの間に狂ってしまったのだろう? それまでは、

                                  「 カワッテイナカッタハズナノニ 」




「・・・違うんだよ。アラウス」

「変化はすでに訪れていたんだ。いや、変わりつつあったんだ世界は、
 『異変』と感じるのは、君が現実を見ていなかった証拠だ。麻痺していたんだよ。」



ヒューダは忌々しげに言葉を吐き捨てた。

─────・・・本当に、そうなのか?

沸き上がった疑問がアラウスの中で何度も反芻されていた。





















・・・なんか、こんなハズでは!って感じです。
「ムーンブルクの事忘れすぎですよ!チミタチぃ!!(絶叫)」
好き勝手やりすぎてどこから突っ込み入れたらいいか迷いますね。
DQの二次創作物の中でもUはレベルが高い人が多いから慎重になっとります。
どこまでやっても良いものかと手探り状態です。カップリングとか・・・
まぁ、王道は無いと思って下さい。ここでは。
次回はムーンの姫と合流できたらいいな。


04.06.23


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