爪先の痺れが頭の上まで伝染していった。
彼の目に其れが何処かへ続くモノには見えなかったからだ。
荒涼と化した大地に突如出現した大穴には風も声も流れていなかった。
恐らく「此処が、世界の果てだ」と言っても否定する者はいるまい。

「眼下に淀み溜まった闇」 と 「頭上に澄み広がる光」

自由と権利が無くても衆人はどちらを選択するか、それは考えるだけ無駄だろう。





彼は一笑した。
世界が平和になった事に不満はない。
むしろ「此の結果」には満足している。
何かに絶望した訳ではない  全て望んだまま
何かを悲観した訳でもない  全てが理想的
「結果」としては最上のモノばかりだ。



─────それでも



彼は上半身を前後に大きく揺らし始めた。
やがて距離を推し量りながら右足を後方に引き




踏み足を深く蹴った。










彼は 漆黒に身を投げた。


















                    唯一、 失くした    の為に













『希望の大地』






《 天空瞬いて 一条の光差す         
衆人「光輪か」と曰わく─── 》



グレイスは立ち止まって天を仰いだ。
年齢の割に成長に乏しい身体、しかし持ち合わせた容貌に却って其れは相応しかった。

曇天の空は相変わらず延々と地平線のその先まで続いていた。
その光景は遙かなる未来をも凌駕し続ける誓いを物語っている様で
心に僅かに宿り芽生えたモノさえも打ち消している。現実に奇跡は起きていない。
陽光が差す事も無いまま十余年が経ち、草木も地表も色褪せてしまった。





                                         今 この大地は 死んでいる











「隊長様よォ!そんなに口開けてますことには、顎が外れやがりますが??」



彼女はいつの間にか閉じていた目を開けた。
鬱に囚われそうになっていた事にグレイスは漸く気付いた。
しかし、掛けられた声に何かがあっさり撃ち砕かれた気がした。
感謝する気も起きない。自然と不機嫌な返事になる。



「・・・・・・そこ・・・変な謙譲語使わないでね」



グレイスは脱力感漂う表情のままやや後方の「元部下」を眺め見た。
その表情は妙に冷めていた。「いつもの事だけどね」音に出さず毒づいてた。

彼女より5メートル離れた所では、巨漢が彼の人生最大の恐るべき相手と睨みあっていた。
確かに妙にしっとりとした捕らえ所のない感触を持った相手に手こずるのは解る(建前)が、
明らかに彼の動作には無駄が多く、怪しかった。・・・限りなく。
拳だけが大げさな程の華麗な音を立てていた。勿論、爽やかに全て 空振る(!!?)
「手を焼きすぎてない?スライム相手に」無音の二の句を紡ぐ。
それ以上掛ける言葉もなくて、グレイスは1人休憩をとることにした。






彼との旅も今年で3年目となった。だが目標は相変わらず遠かった。
手を伸ばしても掴めるモノは無く、ただ旅に身を置いていたままだった。
そんな中で焦燥感にも囚われず自然に自分をやっていられるのもこの同伴者のお陰と
言いたい処だったが・・・スライム相手に失神しそうな巨漢=ヤムタを見てグレイスは思考を中断した。
彼が『取って置きのアノ技』を使う為の準備に入ったからだ。
彼曰わく、

「会心の一撃を相手に喰らわせた後、大地につんのめり気絶する」素敵攻撃
効果=ヤムタはスライムを倒せる→心の傷を癒すために失神する・・・と
グレイスが担いで彼を近くの町まで連れて帰る羽目に────なるのだ、 が

「(イヤだけど)別にそれはいいのッ!!」彼女は内で叫んでいた。・・・・・・そう、
彼女の癪に触わっているのは持って帰る事ではなかったのだ。
自分の体格及び体重の2倍はある大男を運ぶ姿を「ある昆虫」に例えられて
不愉快で情けなくて悔しくて憤慨した────────事だった。アドレナリンは沸き上がっていた。
押っ取り刀のまま彼女は駆け出した。風を受けてマントが翻った。音が辺りに響きわたる。
後方から真っ直ぐ走り込んでくる気配にヤムタは攻撃態勢を解除し、真横に跳ねた。
同時にグレイスが前線に躍り出す。彼女は刀を後ろに下げて構え直した。

緩やかに刀身を鞘から滑らせ、大きく孤を描く様に右に払おうとした、




























─────────・・・・・・時だった。

















「、!!・・・・なんだッ!!!?」









「、・・・・・太陽・・・・・・?」







存在など忘れてしまっていた。



しかし、


其処から現れるのは、誰もが知っている事だ。

 一瞬、空間が切れたかと思った。

   注ぎ込まれた様に 引き裂かれたかの様に 切り込みを入れられた様に

        其処だけが、彩を抜かれてくっきりと浮き上がっていた。





                 彼方から  雲を 空気を 闇を  直下に貫く




                          褪せた世界より色のない 色 と 存在 が


















   其れは   とても









純白の

眩しい

痺れる様な

一筋の











                                                         優しい 光だった  














グレイスの動きは止まっていた。
ヤムタも顎を外して食い入る様に見ていた。
突然、咽が痛くなった気がした。刀を鞘に戻し左手で押さえ様としたが、
手は反射的に目に触れていた。目縁を拭うと其処は既に溢れていた。



「・・・なんでだろう・・・此の感じが、懐かしい・・・」



グレイスは、唯 泣きたかった。
2人は多くの人達と同様に光が途絶えるまで見つめていた。

此の光が 天神の微笑か、死神の冷笑かは未だ知らない。









 2人も 衆人も 大地も 世界も












                       未だ知らない。



















小さなスライムはもう其処に居無かった。






















───────────────────────────┤

ヤムタが存在感薄い・・・。
まぁ、彼の紹介は追々にやっていきます。
ちなみにグレイスの得物は曲刀です。小刀も持ってます。
ヤムタは素手です。素敵攻撃とは=捨て身の攻撃の事です。
厄介ですよね〜。アレ。体力減るし。
次回は・・・ラダトームに帰るカモ

04.06.17


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