僕たちは 幸せになるため


















































僕たちは 幸せになるために









































































・・・・幸せに なる為に・・・・






























































Her name is AGREE





その時、………がどんな顔しているかなんて、
分かってたにも関らず、それでも見てしまった僕を
窘めながらも泣きそうな表情をして、見つめたその瞳は、


強い光を宿していて。

その口は運命の言葉を、僕に告げる。





















「貴女を、死なせはしないわ」





















涙を流さない瞳に、僕は身動きすら出来ない。










































口内が、粘ついている。
顔全体の筋肉が硬くなっていた、みたい。




「頭が、痛い」




言葉らしい言葉を使ったのも、なんだか久しぶりな。




「……怪我を、しているのかな…?」




殊更、ゆっくりと目蓋を開けてみる。
暗い。明かりを感じない。夜なのかしら、今は。




「身体が、痛い……でも頭が一番、痛い」




思考が言葉と一緒にしか動かない事に、恐怖を覚えつつ。
手を、動かしてみる。足も、動かしてみる。




「………動く、」




状態は悪くない、らしい。
僕は、身体を起した。

覚束ない身体と動きに叱咤しながら、仄かな灯りの方へ向かう。
ふと振り返って居た場所を見るが、其処には粗末な寝台があるだけ。














薄暗い灯りに照らされて、彼女の目は瞬き、
そしてそれ以上に、動けなくなってしまっていた。

それまで寡黙なままテーブルの前の蝋燭から目を逸らさなかった男が、
突然、僕を見た。瞬間、明らかにその表情を変えたのを僕は見逃さなかった。




「今更、起きたか。」




気遣いの無い声が、傷付いた何かを抉る。
不意に涙が零れそうになって、僕は俯くしかなかった。

痛い。

視線の先に、擦りむけて真っ赤になった僕の手が見える。
僕の心は動揺した。その鮮やかな色に、
おずおずと腕を動かして両の手を顔の前まで持ってきて、更に驚く。

爪は全て割れていて、付け根も血が固まって黒くなっていた。
内出血のせいで手の平は青紫色に変色し、手の平の皮膚は所々剥げて赤くなっていて、
長く動かしていなかったのか、手全体が少し浮腫んでいた。
その有態に嫌悪と、違和感を覚える。

痛い。

目の前でヒラヒラと揺らせても、僕の手だという実感が無い。
まるで夢を見ているままでいる様な、




「何をしている。動けるなら、さっさと出て行け。
 こっちは、3日も床の上で寝ているんだ。いい加減にしろ。」




3日も。僕は寝ていた?
短くない。なんで、そんなにも?

そもそも、この男は誰なの。
木こりのドワーフという事だけは分かる、けれど。

見ず知らずの僕の看病をしたりして。思いやりは見当たらないけれど、
それでも、お人好しには違いない。愚かなくらいに。
それにすごく年寄りだ。年上だ、………よりもずっと。

僕はさっきから激痛を訴えてる後頭部を押さえた。
なんだか、気になる。・・・・でも、疑問が形にならなくて。

木こりが僕を追い出そうと、更に追い立てる様子もない。
僕はといえば、すっかり涙も乾ききっていて、
一体、何に傷付いていたのかさえ分からなくなっていた。

痛い。

痛い。















着の身着のまま、彼女は男の家を後にした。

何処か、なんて思いつかない。
何処へ何しに何の為に、そんなの無い。
ただ惰性に足を動かして、視界に入る景色を動かすだけに。




「喉が、渇いた。」




生理的、本能的欲求に虚しさを感じる。
満たす手段が無いから。満たそうとする意欲が無いから。

今ならきっと、何もかも捨てられそうだ。
・・・違う、捨てるなら、


途端に、頭の中を何かが響いた。




「……波、海の音がする。」




・・・・海?


心音が一つ。トクン、となった。
その音に僕は『生きている』事を、意識せざろう得ないけれど。

そう、僕はまだ『生きている』。アレからどうやって、イキテイル…?

息苦しさを覚えて、痛みががなり・・・だす。

痛い。

こんなにも。




気が付けば、辺りの見通しがきくようになって。
景色の濃淡が、ぼんやりとではあるがはっきりとしていた。

痛い。

なんとなしに僕は歩を早める。
息苦しいのも押して、鉛みたいな足を動かし続けた。

痛い。すごく、

やがて



急に、目の前がひらけ、
眼下に、僕の視界いっぱいに。



















『 アグリー 』


















「…海…」





僕の目の前には、広大な海が広がっていた。


ただ蒼く、ひたすら蒼い、

………が求めた情景が。そこに在った。






『大丈夫。みんな、貴女が好きだから』






痛い。痛い。痛い。
















































































痛い。













「―――アグリート。」


















































































































































・・・・・・シンシア、


















































「アグリーっ!!起きなさいよ!!!」





「………マーニャ、さん?」





目覚めた場所は、大きな樹の下だった。
天に向かって伸びた枝が、空についた亀裂を思わせた。


その枝の太さが、大きさが
余りにも立派すぎて僕の目には、
「何か」と「何か」を一つに繋ぐ線に―――――見えてしまった。


尤もそれが「何か」、分からない僕ではない。

僕は分かってしまっている。すべてを。





「ごべんじゃさい、すびばぜんッ、ゆうじゃざま!!
 わだじが、だかいとごろが、いあだなんでいっでだかだぁ!!」



「、っだァ――――!!うざいわよ、クリフト!!!」



「ばだしが、わだじが!!ゆうじゃざまを、じなせてしまっだぁぁぁぁ!!!」



「……まだ僕、死んでないよ?」





そう云って。僕の心臓がトクン、となる。
この気持ちは、罪悪感。人に責任を押し付けた時のモノ。


僕は、人に非がある様に見せて逃れようとしている。
これから僕が下さなくてはならない決断から、

非があるのは・・・・悪いのは、僕なのに。


皆の気持ちに甘えたまま、
僕は歩みを止めてしまった。
僕は、僕自身で、その先の道を阻んでいる。





敵への憎悪、………への心情、自身の葛藤、―――――どれでもあって、どれでもない。





「さぁ、アグリーも目を覚ましたことだし、も一回行くわよッ!!」



「ぅ、うえ、ええぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!?」



「アグリーも!!」


















「今度、踏み外して落っこちたら許さないわよ。」

























「…………」





僕は、仰向けの状態から身を起して、
服から細かな枝や葉を払い、髪の乱れを整えた。
手が後頭部に触れた時、僅かな痛みが脳内を疾る。

手の平を見ると乾き始めた血が付いていた。
その色は―――いずれの時とも変わりなく―――赤かった。

樹に背を預けて、僕は頭上を仰いだ。
壮大な息吹を感じる生命体。その存在感は果てしなく雄大で。
大きな樹の枝の間からは、………が憧れた海の様な蒼い空が広がっていた。


『世界樹』―――と、呼ばれる樹に僕らは登っていた。
稀有に咲くことの無い幻の花を、摘む為に。


ロザリーを蘇えらせる、その為に。



視線を側まで下ろすと仲間達は、もう一度『樹』に登る手順を確認していた。
『樹』とは云え生き物だから、2度目は登る順序を変えなくてはならない。
同じ所を何度も刺激してしまうと『樹』の幹が傷ついて痛んでしまうかもしれない。
そうしたら今後、花を咲かせる事がなくなる可能性がある。

大木であっても下から登るだけの手段しか選べないから、恐らくこの機会が最後。
登ってしまったら、もう戻れない。それが許されない。

花を見つけたら、決断を標さなければいけない。



・・・・僕が。



身代わりに………を死なせ、
ロザリーに願いを託されながら、
ピサロを救うことが出来なかった、僕が。





「分かっている筈なのに、何で僕は戸惑っているの?」





ロザリーの死は、仕組まれた事だった。


ピサロを倒す為に赴いた地底帝国で、僕たちが知ったのは、
卑劣なまでの謀略と憐憫で痛切な恋情―――そして、究極の進化の末路。

仲間たちの心は、ピサロに対する哀憐と同情で溢れかえっていた。

だから『世界樹の花』の話を聞いて、摘みに行く事に全員一致で賛成の返事があった時、
各々の顔に灯りが燈った様な、開放された様な表情が、僕には良く分かった。

故に僕は、唯一人だけの・・・・複雑な思いを押し殺すしかなかった。



ロザリーとピサロの為と意気込む仲間たちの姿は、美しく壮麗で。
ただ、………の事に囚われているだけの僕が、醜く偏狭な気がした。


今は以前の様に、ピサロを恨んでいない。
むしろ、彼の気持ちは僕にとって共感できる部分が多かった。
言い換えれば、僕は彼を――――理解出来てしまえる立場に居る。

彼にとってのロザリーが、僕にとっての………の様に。






だけど、

僕は痛みを抱えている。
あの時のままの、同じ痛みを。


この複雑怪奇な思いが、僕の中で
今は醜悪な嫉妬かんじょうに変わってしまった。


だから、

どんなに痛くても、僕は
この望みは叶えてしまってはいけないんだ。


全てはあの時、何も出来なかった僕の

・・・・結果なんだ、と。

僕は、思っている。






甘く噎せ返る、高く瑞瑞しい花の香りが、
どこか遠くから薫ってきた気がした。



その瞬間、風が凪いだ。



















































































時々、思うんだ。








































もしも僕が強かったら、って。








































せめて男だったら、って。








































皆が、幸せになれたんじゃないか……って、








































『大丈夫。みんな、貴女が好きだから』
















































































『好きよ、アグリー』













NEXT DAY



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