時々、思うんだ。もしも僕が、






































もっと強かったら、せめて男だったら、

















































・・・・皆が、幸せになれたんじゃないか、って・・・・






































His name is AGREE






突然の息苦しさに、僕は目を覚ますしかなかった。





「、〜〜〜〜〜〜! た、ばすっこ!!?」


「はぁ、ずれ〜〜〜!! タバスコ!襲っちゃいなさい?」


「ピ、ピッキィぃ―――――!!」


「……うえッ!!? 待った、待ってくれ!!」
























「 シンシア 」







僕が一早く悲鳴を上げた為(お陰で?)、彼女はそれ以上の命令をタバスコに与えなかった。
勿論。僕は、男として何時の日か彼女とその忠実なるペット(?)による、
朝早くからの押しかけ拘束&殺人未遂のその恐ろしさを、とくとくと話そうとは思っているが。





「お早う、アグリー。今日もいいお天気よ?」





彼女の、この笑顔を見てしまうと、何もかもがどうでも良くなってしまったり。
僕自身が、この瞬間を楽しみにして寝坊している処もあるから、
ひとえに云ってしまえば、どっちもどっち・・・・と云ったもので。


結構、―――好きだな―――、と何となしに思ってしまっている。





「その代わり、明日は覚悟しなさいよ? アグリー。」





朝の白い光に照らされて、シンシアは少し意地悪げに微笑んだ。














山と山の間にある狭い平地を均して
木と木の間に屋根を並べた、天と地との間の
その村は、対外的に知らされていない村だった。


敷石も無い路、塀も無い家、煙が立ち上らない様工夫された煙突、
飾り気の見られ無い窓、村の入り口には常に衛兵が立っていた。




丁々発止と、響いていた音が止む。





「……流石だ、アグリウス。まさか、ここまで追い詰められるとは。」


「師匠がそんな弱音を吐かれるなんて、全く! 僕も年をとった訳だな!!」


「〜〜〜〜16にもなってないのに、年の事…など、アグリウスぅッ!!!」


「師匠。 本日もご指南、ありがとうございました!」





形式ばかりの挨拶言葉だけ其処に置いて、抜き身の剣を鞘へと収めると、僕は早々と階段を駆け上がった。
後ろから師範の声が聞こえたけど、敢えて気にせずに。僕は外への扉を開けた。

剣をその辺に放り、僕は固まった筋肉をほぐしつつ、一息吐いた。
地下の練習場に少しの間だけ篭もっていただけなのに、外はすっかり影を伸ばし始めていた。
その事実に若干、苦笑して。僕はさっきまでの緊張を完全に解いて、大欠伸をする。

僅かだったが隙を突き、何かが僕の膝裏に衝突した。
無論、僕はかなり豪快におでこから地面とコミュニケーション。
一瞬だけど、脳内を沢山の思い出が駆け抜けていく。所謂、走馬灯ってやつ?

しかし、僕は冷静に犯人の手がかりを、その姿を確認していた。
格好を気にして形良く、と見栄を張ったりして思わぬ追撃を食らうよりも
抵抗無く沈んだふりをした方が、相手の様子も伺えて一石二鳥だと、考えて。

そして僕は、やや心配げな顔を覗かせる今回の犯人を――――確保した。





「タ・バ・ス・コ〜〜〜〜っ!!」


「ピ、ピッキぃ―――――――――ッ!!!!!!」





タバスコこと・・・・スライムベスの悲鳴が、周囲に響き渡る。


手下を捕まえて天狗になった僕は、早速この事態の仕掛け人の所に赴いた。
勿論。タバスコ・・・・いや、下っ端Aは、重要参考人及び人質として
僕の方で、丁重にお連れした。ちなみにその影の親玉、事の発起人は暢気に昼寝をしている。

村の中央に設けられた花壇(最早、花畑のランク)の真ん中に埋もれる様に、
シンシアは安らかな寝息を立てて居眠りをしていた。

僕は、彼女の、小さな鼻の先端を何の躊躇も無く、抓む。
初めは反応が見られなかったが、次第にその呼吸は荒く、激しくなり。
パールピンクの瞳が瞬き、その焦点が僕にかち合った瞬間に、
彼女は全てを悟ったらしかった。僕は、彼女の聡明さに心中で拍手を送る。

右手にタバスコを抱えて左手で鼻を抓んでるから、ね。





たっぷり、と。間を置いてから、僕は彼女の鼻の戒めを外す。
僕の手が取れるや否や、シンシアは花畑の傍を流れる小川に顔を映した。
やった僕が云うのもなんだけど。後が残らない様、ちゃんと加減してあるから。

たぶん、大丈夫・・・・・・・だと、思う。


顔に出さなくても、内心では肝を冷やしていた僕に対して、
確認を為終えたシンシアが意味深な笑顔を見せたのは、その直ぐ後のこと。















太陽は西よりに傾いていた。
清澄な空に茜色の兆しが表れ始めると、闇を身近に感じる。
その見え方が静かな分だけ。その色味が深い分だけ。

その度に僕は、天空を伺い見ていた。

沢山の花に囲まれて、その中に埋もれていながらも
殊更に、僕は空の変化に対して常に過敏に反応している。

大地にその足を下ろしていながらも、どこか僕は、
遥か先の天空に、その思考を奪われていた。
時に、襲われる感覚に自分自身で驚いている。





「昔の言葉で『NOSTALGIA』って云うのよ。」


「………どういう意味だ?」


「ホームシック、てこと!!!」





腹這になっていた僕の背にシンシアが頬を寄せた。
本当なら其処だけが温かい筈なのに、僕は顔まで熱くなる。
結局、振り向くことも出来ずに、僕はシンシアにされるがまま。

それでも貪欲な僕の心は、更なる快感が欲しくて、彼女の方に見返った。
慰めでも何でも、シンシアの言葉が、聞きたい。そう思って、言葉を紡ぎだす。
舌が熱を帯び始めていたせいか、上ずった声だった。





「そうだとしたら、帰れそうにもない、な?」



帰りたくても。帰りたいとしても。―――――・・・・帰れない場所。



「…………帰れるわよ、『彼処』には。」





意外な肯定の言葉に、僕は何故だか喜んでいた。
冗談――――という選択肢が、その時に限って浮かばず。僕は顔を緩ませた。








「でもね、アグリー。もしかしたら、
 貴方が感じているのは『其処』じゃないかもしれない。


 もっと遠くの場所、ずっとずっと離れた場所、
 恐らく其処は、今の貴方が知る所じゃないかもしれない。


 だけど、忘れないでいてね?
 其処も『あなた』の居場所だから、」








「……シンシア?」








「―――ねぇ、アグリウス。
 このまま2人、ずっと一緒に居られたらいいね。」








シンシアは、僕の背中で。

僕の服を少し引っ張っていて。


縋り付いているのかと思ったけど、どうやらそうでは無いらしく。
僕より華奢で小さな身体を固くしながらも、
決して寄り掛かり委ねる訳でなく、寧ろ僕に添う様に、その身を横たえた。

タバスコは僕の腕を枕代わりに、眠っていた。















―――――――・・・・翌朝、


突如として腹部を襲った激痛に、僕は目を覚ました。
息を吐き出す暇も無く、今度は頭の方が激痛に晒される。
しかも、威力はさっきより確実に増して。

両手で頭を押さえ、本能的に痛みから逃れようと、
僕が身体を捻ると同時、寝台は横に真っ二つに割れた。



――――…否、『 割られた 』。



僕は上掛けを足で蹴り飛ばし、寝台から飛び退く。
床に着地する際、僕の双眼は有り得ないシルエットを映し出す。

次に顔を上げた瞬間――――。

僕は、起抜けの僕を叩き起したヤツの・・・・、その姿を確認した。


























「……ば、化け物ッ!!!」



























僕は周りを気にせずに、今知る限りで最強の呪文を唱えていた。




























「、アグリー!! 無事ッ!!?」





「……シンシアっ!!!」





僕は情けない声を隠し切れずに。
戦慄く手を握り締めながら、玄関の外へと飛び出した。
一刻も早く、今の状況を逃れたくて。


足元に無言で転がる化け物の部品を避けながら、
僕はただ、シンシアの顔を見たかった。



日の光の下、外に出てシンシアの顔が見れた時、
全身から苦痛が解けていったけど・・・・。


この日ほど僕は。

澄み切った青空を、眩しい朝の白い光を、

天空の遥か先にある太陽を。


恨んだ事は、無い。






一瞬、シンシアが駆け寄って来たのかと思った。
だけど、その時の彼女の身体からは完全に力が抜けていて。


姿勢が前のめりになっているのにも拘らず彼女は、
両腕を突き出す事も膝を曲げる事もせずに、苦悶の表情を浮かべていた。

僕は、咄嗟に彼女との距離を詰め、抱きとめる。
腕の中のシンシアは、まるで人形のように青白く。

今しがた、殴打を受けた後頭部・・・・以外は、


明るい日差しの中、彼女の血は鮮やかだった。



















「……………………シ、シンシアぁぁぁッ!!?」





僕の悲鳴が空気を裂いた、朝。



























「――――――――――――…見つけたぞ、勇者。」





世界を塗りつぶす低声に震えた。















腕にシンシアを抱いたまま、僕は地下の練習場がある小屋に立て篭もっていた。



はっきり云ってどこまで保つか、想像するに容易かったが、
それでも希望を捨て去る気力も無く。僕は完全に途方に暮れていた。





「…………アグリー、」





僅かに身じろいだ僕を、存在ごと包み込む様に。
シンシアが、その両腕を僕の首に絡ませる。

僕は声も出せず、唯々、彼女を抱き返すしかなかった。


あまりに突然の変化についていけず、精神はすっかり恐慌をきたしていて。
言葉に言い尽くせない不安と絶望感に、息の仕方も忘れる程、
僕の混乱は、際どい処まで侵食していた。


慣れていないんだ、僕は。
緊張とか、切迫感に。臨場感に怯え、萎縮する。

己の情けなさに、恥じ入りたい。
例え、状況が赦してくれなくても。
僕にはそれだけの余裕が無い、から・・・・。





「アグリー、ちょっと良いかな?」





そう云うと、シンシアは僕の首から腕を外した。
その呆気ない位、スムーズな動きに、僕は漠然とした恐怖を覚える。
君のすることに対して、不安を感じたのは始めての事だった。

シンシアは、ややふらつく身体を意識しながらも、
自分の足で立とうとする。その足元があまりに危う過ぎて、
僕は躊躇わずシンシアの躯に腕をのばした・・・・、が。

シンシアの答えは、意外なモノだった。

彼女はその手を、僕の手を拒んだ。
決して自分に触れてはならない、と云わんばかりに。





「………シンシア、なんでだ?」





彼女は静かな笑みを、その相貌に湛えていた。
綺麗な綺麗な、彼女の笑顔を。





「アグリー、絶対に此処を動かないでね。そして、
 何かが起こって何かを見たとしても、それは貴方のせいじゃないわ。」














「………『あなた』のせいじゃない。」













































「『あなた』のせいじゃないのよ。だから、

『貴女』の持つ弱さを嫌わないで、いいの
『貴方』が持った強さを赦して、いいのよ?

伝わらないなら、何度でも・・・・云ってあげる。」






































「 好きよ 」






















































「 アグリー 」












































































僕が、なんで『其処』で笑っているんだ?
























































































































































「―――アグリウス。」



















「……ミネア、さん」







「平気でござるか、アグリウス殿。」


「………ライアン、さん」





僕の、目が覚める。

降り注ぐ日差しが厭味なくらいに、あの朝に被る。
大切な人と故郷の村を失った、あの日に。



身体を起こし、ふと自分の手を見やる。
爪の色、指の形、皮膚の皺―――それぞれの在り様に、
僕は妙な不気味さを覚え、慌てて目を反らした。

き   も チ   ガ ワ る    イ

本当なら、僕はあの時に、冷たく腐っていた筈なのに。
・・・・違うか、何もかも無くなってしまっていたんだ。………みたいに。





「しかし、何やら武者震いする思いでござるな。
 アグリウス殿と戦えて、拙者は、感激しておりますぞ。」


「ライアンさん、そんな大げさに云わないで下さい。」


「でも、やっとこれで決着がつくのですから、
 ライアンさんがそういう気分になるのも分かる気がします。

 魔物と…ピサロに、これ以上、力を与えない為にも。
 勇者さま、私も全力の限りに戦いますから! 頑張りましょう、これで最後ですから」


「……そうだな。」





ずっと力任せに戦ってきた。


何が正しいか、そうでないかだけを信じていた。
向かってくる敵を打ち倒す、悪に立ち向かう正義として。

立場なんて変わらないものだと、諦めていた。


きっと、この日を経てこの先に、待ち受けている結果は、



僕に、更に重い傷跡を付けてくれることだろう。



今、逡巡なり考えるなりの時間があれば、
少しはましな未来が、望みうるのだろうか―――、・・・・あるのだろうか。


僕は力任せに、ただ先を、求めてきたし、・・・・求め続けてきたけど。

そしたら、僕と同じ境遇の彼を、僕の仇である彼を、
ここまで追い詰める様な、こんな結果にならなかったのだろうか?



その瞬間、暖かな日差しが僅かな間だけ、雲に遮られた。
















































































時々、思うんだ。








































もしも僕が弱かったら、って。








































せめて女だったら、って。








































皆が、幸せになれたんじゃないか……って、








































『大丈夫。みんな、貴方が好きだから』
















































































『だから『あなた』を赦してあげて』













NEXT DAY




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