「『あなた』のせいじゃないのよ。だから、


『貴女』の持つ弱さを、嫌わないでいいの
『貴方』が持った強さを、赦していいのよ?

伝わらないなら、何度でも・・・・云ってあげる。」






























































AGREE,It is their name.





かつて僕が望んだ祈りは、届かなかった。
過去に後悔した処で、意味のないことだった。


だったら僕は、如何したら良い?





生活臭の無い村だった。

同じ年頃の子供は、………と僕だけで、あとは全て大人ばかり。
しかも、親族や馴れ合い等の集まりでない。
『夫婦』と呼ばれる間柄なのは、僕の父と母だけだった。
剣術指南者や魔術者、学者や宗教家まで居たのに。


木が多くて見通しが悪いと、文句を言ったこともあった。
でもそれが、外からも見えにくい様になっていた事に気付いたのは、


村を、………を失った・・・・あの日だった。




僕は、皆に守ってもらっていたんだ。



………、君にさえも。
















































ピサロを斃してから、3日経った。


僕は天空城の露台からぼんやりと、下界を見下ろしていた。
仲間達を各々の故郷に帰してから2日過ぎ、
静寂の中に肩身狭く日々を送るに、僕は憂鬱を感じていた。

もとが平凡に暮らしていたから慣れるのは直ぐだと、考えていたのに。
自分に自分が裏切られた気分だ。僕から何かが、削れていく。


此処で与えられた服は、背部を隠す様に出来て無くて、
羽の無い僕は袖を通すことに躊躇いと・・・・強い劣等感を感じた。
そんな気は、恐らく母を含む他の天空人やマスタードラゴンには無いだろうけど、
やはり周りの目が気になって、人目から逃れる様に過ごしていた。

いっそ、開き直ってしまえたら良いだろうにそれも出来ない。


意識したくなかったけど、僕は。



なんて、汚らしいんだろう。









「お久しぶりですな、アグリウスさん」





有り得ない事態に、僕は目を瞠る。





「……トルネコ、さん? どうして此処に。」


「姫様に頼まれて、のう。様子を見に来たんじゃ」


「ブライさん…まで。」





遠い空(か)の下に居るであろう御転婆姫に僕は感謝し、
面倒な道程を態々訪れてくれた戦友に対して、深く頭を下げた。

僅かの間しか離れていなかったのに、もう随分と昔の事の様な日々が
脳裏に様々と過ぎり、目頭の熱いモノが視界を歪ませる。










『大丈夫。みんな、貴方が好きだから』










本当、申し訳ないくらいだ。





「折角来て下さったのに、御持て成しが出来なくてすいません。」


「いや、気にしなくて結構ですよ。わたし達は貴方の顔を見に来たのですから」


「…………僕を?」





心配を掛けてしまっていたのだろうか。
勇者がいない状態で天空城に来るような危険を冒させる程に。





「すいません、余計なお気遣いをさせてしまって…」


「わしは姫様のお世話でなれておる。気になさらんことじゃ。
 そのご様子だとアグリウス殿、相当にご苦労されているようですのう。」


「…………………そんな、こと。」





全ては僕自身のことで、本当の事だから。
だが、僕の沈黙は違う意味で取られてしまった。





「……アグリウスさん、あれから村の方には行かれましたか?」





僕は戦慄く双肩を抑えることが出来なかった。














山と山の間にある狭い平地を均して
木と木の間に屋根を並べた、天と地との狭間に
誰にも知られない様にと、僕の村は在った。


僅かな家々だけの村だった。井戸は一つだけで、
個々に塀は無く、村全体を一纏めにする様に張り巡らされた柵。
人は、恐ろしく閉鎖的で陰気に暮らしていた。

村の中央に設けられた花壇。
………との時間があり続ける場所。
草木が大好きだった彼女の為に父と作ったお粗末なものだったけど、
彼女は喜んでくれた。本当に、喜んでくれていた。

木々に埋もれることを予測した・・・・否、そう在るべく作られた村。


今、此の場所に立って様々と思い出して顧みても、
あの時を懐かしんでも。どうにもならない事だと、分かっていたのに。

僕の心は、まだ期待に溺れていて―――、
胸を苦しめるこの記憶から解かれると祈り続けている。

だから、あの日と変わらぬ光景を前に、
僕の身体は居竦まって、動けなくなってしまっていた。





「やっぱり、変わっていない……か。」





煤と灰とガラクタと化した建物。
赤紫色に変色した草と同上に侵食された大地。
朽ちた花弁に埋まった花壇・・・・其処に広がる毒の沼。

あの日、僕が拾った羽帽子が無いだけで、なんら変わりがない。


もう2度と帰れないと、知ってしまったあのままで。





「『あなた』のせいじゃないのよ。だから、


『貴女』の持つ弱さを、嫌わないでいいの
『貴方』が持った強さを、赦していいのよ?

伝わらないなら、何度でも・・・・云ってあげる。」







「――――、ピキィィっ!!」





膝裏に何かが当たり、衝撃に僕は前へと、つんのめった。
覚えのある状況に僕の身体中に震えが疾り、皮膚が粟立つ。
心音が喧しく聞こえ、頭の中は何かが喚いていた。





「…………………た、ばすこ………?」





徐に僕が視線を足元に下ろした。
其処には、予想に違わずのっぺりとした赤い生物。
………と可愛がっていた友達。それは特徴的な顔を此方に向けていた。

幼い頃、怪我をしていたのを見つけて2人で看病した。
治っても、帰る当てを失っていたのかそのまま居続けて。
あの前の日を境に、姿を晦ませていた。・・・・故に、疑ったこともあった。


密告したんじゃないか。
僕らを欺いていたんじゃないか。

事後に僕が脅してしまったんじゃないか。
罵って深く傷つけてしまったんじゃないか。
狂乱の最中、此の手で殺してしまったんじゃないか。


振り返り膝を折った。
罪に染まった手を見つめ、視線を戻した時、
タバスコは、僕の顔を見て嬉しそうに鳴いた。























































































「…アグリウス…」



























































































































「―――――……シンシア、」












































































































「……遅かったじゃないの、アグリー!
 どうして直ぐに帰って来てくれなかったの?待っていたのに。」





「赦されないと、思っていたんだ。」





「何に?貴方は、世界を救ったじゃない。」





「何もかも、全てを救えなくて。結局、僕が死なせてしまった。
 追い詰めて、引けなくさせて…絶望の中に、混乱に乗じて殺してしまった。」





「分かって、いるわ」





「僕は何処にも行けないって、思っていた。」





「だから、『あなた』を……いいえ、『貴方』を赦しに来たの」





















































































「 お帰りなさい、アグリー 」








































立ち上がり、天空を仰ぐ。
光の中に浄化を求める様に両の手を伸ばし、
怯えながらも目を開けて、僕は光の裁きを受ける。

僕は、僕自身の罪を知っているから。
何も拒まず、否定せずに・・・・受け入れるつもりだ。
だから、されるがまま、時を待った。僅かな時間の先を待って。

やがて発光が鈍り始め熱が腕の中に蟠り、審判の終わりを告げた。

























































































































































































































































































僕の額に柔らかい熱を感じた。
僕の前髪が、小さな風に揺れた。
僕の胸は期待と興奮が綯交ぜになって溢れた。

伸ばした僕の腕は、人の気配を、
実体である証拠を・・・・尊い、命の重さを感じていた。





「シンシア、」





「…ありがとう、アグリー。帰ってきてくれて」





嬉しいが、止まらない。
全身でシンシアの感触を、存在を感じた。
いとおしさを、愛情を、好意を――――、感じていた。


そして、この情景ヴィジョンに、僕は・・・・。


ある影と影が重なった。『其処』は、此処でない場所。





『其処』で、今の僕ではない・・・・、





―――――――『僕』が見ていた。





「――――…分かった。」


「そう、……分かったのね? アグリー」





























やっと、分かった。


シンシアの赦しの意味を。



『僕ら』の『在る場所』の存在を。




だから、今

・・・・僕から送る


『僕』が幸せになれるように。

正義でなく、勇気を。
悔恨の戦いの後には、平穏を。
・・・・そして、赦しを与えて。


僕から送る・・・・『僕』へ。









「本当に、ありがとう」





















































































「―――アグリート。」
















































































僕は、天空を仰ぎ見た。

声が聞こえた気が、したから。
優しくて穏やかな覚えのある声。
・・・・綺麗な、綺麗な声だと、思った。





「――――…幸せに。」





だから、それに答えるよ。






「…?、何を云っているんだ。それ以上、まだ恍けようがあるのか。」


「こらァ!そこの外道魔族、勇者様にその様な言い方は無いでしょう!!」


「……貴様が歯向かうとはな、邪道神官がッ。」


「言いましたね。―――――陰険、変態、根暗魔族。ザキザキザキザキ………」


「!!!!!!!!!!!」


「ちょっと、喧嘩しないのッ。下らないことで!」


「ついでに、そんな事で魔法使わないで下さい。」





僕は取り敢えず、リーダーとして言うべきことだけ言ったつもりだったけれど、
すかさずマーニャさんが振り返った処を見るに、かなり的外れだったらしい・・・・。





「アグリーも本当に、……底抜けなのね。」


「良く幼馴染にも言われていました。」


「…………そう。」





途端に黙ったマーニャさんに善からぬ気配が見えた気がして。
だから、僕は音を立てずに、彼女から一歩下がったんだけど、
彼女の口から出た言葉は、およそ想像したのと違っていた。





「それで、アグリーは…帰ってみたの?故郷に、
 もし、帰り辛いなら付き合ってあげてもいいわよ。」


「そうですね…僕も、今まさにそう思っていた処でした。」


「今?まさに??」





マーニャさんは、少し不思議そうな顔を見せた。
そんな彼女の反応の仕方に、僕は。


今もなお、痛み続ける傷を意識したものの。


素直な気持ちを、言葉にした。


確信に変えたいと、希望を思いながら。













































「……予感が、するんです。」




























































・・・・ねぇ、



『僕』にも届いたよ。『僕』の言葉。








































だから、なれますか?
























































































































・・・・僕たちは 幸せになる為に・・・・





















END












































〜あとがき〜

今更、思ったこと。

「題名に内容が合っていない気がする。」

かつて無い事態にハラハラです。なんでこんなことに。

なんたって、元が「絶望の丘」ですからね。合わない訳ですよ。
福岡DQオンリー開催記念アンソロの際も、題名を変えた位ですからね、「救世主」に。
いや、浮くんじゃないかって思いまして・・・・「絶望の丘」だと。明らかに。(小心者なので)


え〜、シンシアの立場は男女共々、全て同一の設定です。
プレイヤーとゲーム環境が変わっただけと、お考え下さい。
ちなみに男勇者=アグリウス、女勇者=アグリートで互いにあだ名はアグリーです。
そして、男勇者=FC版、女勇者=PS版…といった具合に、考えると
なんで女勇者の所にだけ彼が(仲間として)居たのかが、お分かりになるかと思います。

元々、同人活動用の設定で考えていたものの上、説明不足だらけで、
かなり意味不明な処があったのをお詫びします。

いつかキャラ紹介を付けた方が良いのだろうか・・・・?

それでは、ここまで読んで頂きまして、ありがとうございました。


2004.12.23.24.25

BGM:JanneDaArc「―救世主 メシア―」&浜崎あゆみ「Voyage」+PlasticTree「絶望の丘」
(まんまじゃないか!という突っ込みは無しの方向で)

風崎 綾・拝





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