恐らく。彼は、讃えられる。 世界を救った勇者の子孫として。 否応無く。彼は、畏怖の対象となった。 同時に。その生命欲と強さに憧れを持たれる。 彼の強さには、一切の揺らぎは無かった。 誰も彼もが、彼の脆弱さと孤独に気付かない。 だが。彼は、己の足跡を振り返れなかった。 這い上がれぬ深淵で。彼は過去を夢に見る。 彼を救うは、唯一の女性(そんざい)。 そして。彼は、喜びを得る。 例え。それが、永遠で無いにしても。 しかし。彼は、その想いの。 ただ。ただ。互いを、己を想うが故に。 夢から覚めて、絶望を見る。 【はじまり】 「アレフガルドを救った勇者ロト」の伝説が、かつての物語りの中に戻ってから、300年余りが過ぎ。 戦いの悪夢もその歴史も、太陽と光の珠によって穏やかに消え去ろうとしていた―――、或る日。 ラダトーム歴325年、ラダトーム国王 ラルスXVI世の御代に異変が起こる。 「竜王即位」 瞬く間に広がった噂は確かな現実の足音を持ち、やがて王家を襲う。 報が流れて2年後に、ラルス王の元にあった光の珠が、竜王の配下によって、 彼の愛娘ローラ姫と共に強奪された、と言う事実として。 直ちに王は、遠征軍を創設しローラ奪還を命じたが、芳しい報せが無いまま年月は経っていく。 その僅かの期間にも、国中の人々は正統後継者である王女の生存に絶望を、 己の将来に悲壮感を抱き。確たる希望もないまま、苦しみと悲しみに暮れていた。 ラダトーム歴330年1カ月、「竜王即位」から2年、「王女誘拐」から3年が経った―――、運命の日。 不思議な紋章を持った少年=アレスが、この地に辿り着く。 |
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