|双子の夏の過ごし方|
『暑い』
誰もが唱える真夏の一言、「寒い」より多用される確率が高い。
何故か、他人が使用すると体感温度が3度は上昇する効果を持つ。
時に人は「コレ」を封印する為に肝試しや怪談など周囲を道連れにするもとい
「盛り上がって、みんなで忘れよう!」という手段をとったりする。(定番メニュー)
「怪談話に引っかかるお年頃」にも個人差と云うモノがやっぱりあって
割と早い段階に開き直る人もいれば、何時までも引っかかる人もいるもんです。
周りの期待通りに面白いぐらいに怖がる奴は、遂に「何時まで聞いていられるか?」と
我慢大会が(一方的に)開かれて、逃げ道を塞がれたりしまったりしまいます。
そうなる前にとっとと「見逃してくれ」と云えれば良いのですが、偶々、本人のプライドが
エラく高かったりして、その上、挑発に煽られやすかったりすると・・・。
誠に哀れな(在る意味で望み通りの)末路を辿ってゆく事になるのです。
『魔族の王様=ダーク君(17歳)』はそんな男の子です。
そもそも彼は他人とコミュニケーションをとるのが、
ひじょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜おぅ(非常)に苦手な方で
素直な上に(存外)擦れてなくて、(本人いたく否定しておりますが)マザコン&ファザコンで
(コレまた否定してますが)女の子に一目惚れしたりとお年の割に純情な男の子です。
さて最近、ブラコンにもなってきたダーク(本人は強く否定しています)が、
相変わらず「おっかないお兄さん=カーグ」の話す怪談話に恐怖バロメーターが
振り切れてしまいそうになっていました。
+ + + + +
「─────こうしてマチコちゃんは、二度と帰って来れませんでした。おしまい。」
「、・・・そッ、それでおしまいか・・・!案外、大したことないものだな!!」
ダークは震える声を隠しながら決め台詞を言った。
さっきから背中に嫌な汗をしっとり掻いていましたが、
そんな事云える訳もなく健気なやせ我慢をしていました。(・・・多分バレています)
ラグナス大陸にある魔族の村ドラコニア、別に意識した訳ではありませんが、
偶然にも兄カーグが住んでいる元ニーデリア領ユーベルに近い其処にダークは生活を移していました。
それ故と言うべきか、だからと言うべきか、カーグは度々ダークの所へ訪れているのです。
そして、
真夏の熱帯夜に突然、実兄にお宅訪問され押し売り状態で怪談話を聞かされて1時間、
足の震えもいい加減「貧乏揺すりだ」と言い訳出来なくなってまいりました。
しかし、「自称・優しいお兄さん」は可愛い弟がこんな夜でも寝付きやすい様にと
舌の根乾かすことなくお話しをしてくれるのでした。
月明かりがやんわりと雰囲気を和ませてもダークの心は大雨洪水波浪警報が鳴りまくり。
夜中の2時になる頃ですし、そろそろ終わりにして帰って欲しい気持ちが抑えきれなくなりました。
でも、自分から言い出しては怖がっている事を悟られかねないので(・・・多分悟られてます)
楽しまれてしまう反応をしない様に、と頑張っているのです。
が、
恐らく彼は、
「そんな風にしているお前を見るのが楽しいんだ」という嗜虐的なお兄さんの
尊いぐらいにおっそろしいお心を知らないでしょう。あなたのお兄さんはそんな人です。
+ + + + +
「さて、じゃあ。そろそろ帰ろうかな。」
ずっと掴み損ねていた彼の幸運の神様(殆どハゲています)の髪の毛が捕らえられた模様です。
カーグは軽やかに立ち上がり華麗に帰り支度を始めました。どうやら本当のようです。
ダークの脳裏にファンファーレが鳴りました。
色とりどりの紙吹雪が舞い散り、普段なら信じていない神様に感謝を捧げます。
天国のお父さんとお母さんが見守っていて呉れたからでしょう。
「・・・あぁ、そうだ」
お兄さんの瞳が怪しい光を宿しています。
バックにI−C、S−6006(キラキラ)が乱れ飛んでいます。
とてつもなく、イ〜ヤな悪寒ではなく、予感が致します。ダークは身構えます。
「さっきの話しには、続きがあって、
・・・話しを聞いた後、直ぐに寝るとマチコちゃんと同じ目に遭うんだってさ」
なんて事でしょうッ!!
途端に幸せに包まれていたダークの顔が恐怖に染まりました。
仕舞った筈のバロメーターが再び現れてギュンギュンと揺れています。・・・振り切れました!
「、どぉ・・・どうすれば良いんだッ!!」
「呪文を言えばいいのさ」
この日、初めて兄の後光が何時もと違い、神々しく輝いて見えました。
「寝る前に枕と向き合って『ソウハシナハノコ』って唱えるのさ。
ただし、寝た後に一瞬でも目が覚めたら又、唱えなくてはいけない。わかったか?」
なんだ!簡単な事じゃないかぁ!!
ダークはすっかり信じてしまいました。
+ + + + +
ここから先は後談ですが、
その晩は、ダークは寝台の上で枕と向き合って
ひたすら呪文を唱え続けて 結局、一睡も出来ずに朝を迎えたそうです。
おかげで翌朝の散歩中に階段から転げ落ちて彼は、尾てい骨をおもいっっきり打ちました。
それでもマチコちゃんみたいにならなくて良かったとその時は、『本気』で思っていましたが、
カーグから聞いて心配して来た想い人=リリアの話しで昨夜の怪談話が全て嘘っぱちで
騙された事にやっと気付きユーベルに押し掛け、
・・・・・・返り討ちに遭ったとさ。
カーグの言った呪文・・・気付かない人はダークレベルです。
双子の夏は、こう過ごす・・・。
END
・・・NO。コメント 04.06.25